歌手:
ルルティア
专辑:
《ゆるぎない美しいもの》私はやってきた、森と水が創る神秘な島、屋久島、武の故郷
武「スミレ、こっちこっち」
スミレ「この空港は花の匂いがするね」
武「あれ?帽子は?」
スミレ「へ?ないけど」
武「しょうがないな、ちょっと待てて、麦藁帽子、買ってやるよ」
スミレ「え?いいよ」
武「よくない、これから浜辺を散歩するんだから」
武「あの白い花は、浜木綿だよ」
スミレ「たくさん咲いてるね」
武「スミレ、よく来たな」
スミレ「気が付いたら旅に出てた」
武「旅ってそんなふうにするもんだよ」
スミレ「ううん、違う、ずっと会いたいと思ってたの」
武「俺に?それとも、この、海に?」
スミレ「武、私…」
武「島の反対側は雨なのに、ここはこんなに晴れてる。見て、あっちの雨雲」
スミレ「本当…」
武「この不思議さは来てみないと分からないだろう」
スミレ「うん、ね?」
武「っ?」
スミレ「聞いてる?あたし、本当あなたに会いたかったのよ」
武「あ、聞いてるよ。俺もさ」
スミレ「へ?」
武「スミレに、会いたかった」
スミレ「うん」
武「な、ほら、向こうに港が見えるだろう」
スミレ「船がいっぱい泊まってるね」
武「宮之浦って言うんだけど、俺、あそこで働いでるんだ」
スミレ「行ってみたい」
武「いいよ。そうだ、港から船を出して、海に潜ろ」
港では、武と同じような、厚い胸板と、大きな瞳を持った男たちが、船を整備していた
武を見ると、白い歯を見せて笑った
武「この魚はね、レインボーっていうんだ。水の中では、青と黄色の二つの色しか持たないんだけど、船に上げると、こうして七色に輝き出すんだ」
スミレ「キレー」
武「海に潜るのは初めて?」
スミレ「うん」
武「大丈夫、なんにも怖くないよ」
武は、子供の手を拭くように、私を海に誘ってくれた
武「腕も、足も、動かす必要ないんだ、ただ、頭から突っ込めば、自然と沈んでいく」
スミレ「武、手を離さないでね」
海の中は、清としていた、口から出る泡は、水銀のように煌めいて、上へ上へと昇っていく
魚が隊列を組んで通り過ぎる、同じ背鰭、同じ鱗、青、黄色緑、列車のようだ
海の中で、武の顔を触ってみた、銀色の武の顔
【插入曲start】
武「今度は森に行くよ?」
スミレ「いいよ」
武「疲れてない?」
スミレ「大丈夫」
【插入曲end】
武「この島は雨は多いんだ」
泥濘んだ山道を歩きながら、武は言った
苔生した原生林、何千年もじっと呼吸を続けている、大きな杉の木
武「滑るから気を付けて」
スミレ「ね、あれが九州で一番高い山?」
武「宮之浦岳、標高、1935メートル」
スミレ「雪も降るんのよね、ここは、南の島なのに」
武「っは、もしかして勉強した?」
スミレ「一応ね」
武「いいな」
スミレ「え?」
武「スミレが輝いてる」
スミレ「汗が滲んでるだけ」
武「違う、スミレが、とっても自然に笑ってる」
スミレ「そうかな」
武「もうすぐ雨が降るんだ、雨の森を一緒に歩きたい」
スミレ「雨降るの?」
武「降るよ、必ず。ここはね、一週間に、十雨が降るんだ」
圧倒的な緑、一面に、苔が生えてる
雨粒を嬉しそうに全身に受けた胞子の群れは、キラキラ光っている
武「ね、想像してご覧?まるで、深い海の底にいるみたいだろう」
スミレ「うん」
武「木たちはね、数千年の時間の中にいるんだ。水を吸い上げ、葉を伸ばし、太陽を信じてここまで大きくなった」
スミレ「縄文杉が、樹齢七千二百年って、本当なの?」
武「これだけ幹が太いからね」
スミレ「すごい」
武「二つの杉が一緒になったから、こんなに長生きしてるっていう説もあるんだよ」
スミレ「素敵、そういうの好き。あ、見て、ほら、本当に異本が一本になってる」
武「危ないよそんなに走っちゃ、滑るよ」
スミレ「大丈夫」
武「そろそろ、見えるよ」
スミレ「へ?」
武「こっちへ来て」
武に腕を掴まれた
ふっと、男の匂いがした
武「ほら、あれ」
武の指さした向こうに、大きな石が見えた
山の頂上に突き刺さった、大きな石の柱
武「な、大きな墓石みたいだろう」
私は何故か、何も言えなかった
しばらく私たちは佇んで、その大きな石を見つめていた
スミレ「武?」
武「ん?」
スミレ「何が、あったの?」
武「別に、なんにもないよ。さ、行こうか」
スミレ「うん」
【插入曲start】
森を抜けて、浜辺に出た
私たちは、二人でタバコを吸った
【插入曲end】
武「あと30分くらいかな、いいもの見られるよ」
スミレ「なに?いいものって?」
武の横顔を、夕日が照らしていた
頬に塩を浮かせている
武は、遠くを見つめていた
武「暫く目を閉じて、波の音を聞いてご覧」
スミレ「うん」
知らないうちに、私は眠ってしまった
不思議な夢を見た
私は八歳の少女で、傍らに、父がいた
父は、優しく私の手を握って、こう言った
『大丈夫、なにも怖くないよ』
武「スミレ、スミレ」
スミレ「ん?あぁ、うとうとしてた」
武「よく寝てた」
スミレ「そ?」
武「寝言いてた」
スミレ「ウソ?」
武「ウソ」
スミレ「えへへ。あ、あっという間に夜」
武「さぁ、見てご覧、これが、見せたかったもの」
波打ち際に、無数の銀色が輝いていた
スミレ「な、なに?」
点滅する細かな光の線が、波に揺られて行ったり来たりしている
武「夜光虫だよ」
スミレ「夜光虫!」
武「見てなよ」
そう言うと、武は海に入っていた
加担して海水をグルグル回す
小さな渦巻がきた
その渦巻に吸い寄せられるように、光の束も回り始めた
スミレ「きれい~」
武「スミレ、ほら、上も見てご覧」
スミレ「上?」
武「星が落ちてきそうだろう」
スミレ「うわ~」
浪間に揺れる光の渦、そして、夜空に瞬くいっぱおの星
スミレ「武、こっち戻ってきて」
武「スミレ、世界は繋がってるんだ」
スミレ「武…」
私は堪らず海に駈け出した
ワンピースの裾に、海水が染み込む
武「スミレ…」
私は、武に抱きついた
潮風が頬を掠めた
【插入曲start】
【插入曲end】
武「昔、婆ちゃんに聞いた話があってさ」
スミレ「どんな話?」
武「星の話」
スミレ「聞かせて」
武「『太陽と月は兄弟だった、お母さんは二人を産んで死んだ。太陽はお母さんの遺体を地球へ送り、その胸から星を引き出し、思い出として、夜空に舞えた』」
スミレ「死んだ人の思い出が、星になるの?」
武「うん…」
スミレ「武…」
武は大きな手で、私の肩を抱いた
スミレ「夏の初めに父が死んでから、何だか、自分が自分じゃなくなったみたいで、今までどんなふうに歩いてたのか、今までどんなふうに笑ってたのか、よく分かんなくなって」
武「泣いていいんだよ」
スミレ「武…」
人前で、初めて泣いた
武は私の背中を優しく叩いてくれた
心臓の鼓動のように、繊細の楽器を奏でるように
武「俺があげたブレスレット、つけてくれてるんだね」
スミレ「勝がね、欲しいって言ったんだけど、ダメって言ったら、先生は武のことが好きなのって」
武「スミレ」
スミレ「うん?」
武「俺の家、くるか?」
スミレ「うん」
星が流れた
西から東へ
【插入曲start】
武の家に行った
月光に照らされた、臙脂の瓦に白い壁
【插入曲end】
武「さ、入って、今お茶入れるから」
畳の部屋、箪笥の上に写真があた
ふと、手に取ってみた
そこには、笑顔の武と寄り添う女性
そして、二人の間には、幼い女の子
何で気が付かなかったんだろう
そっか、武は結婚しているんだ
子供がいるんだ
武「お茶より酒のほうがいいよな?今、魚裁くから、ゆっくり座って待ってて」
スミレ「うん」
慌てて写真をもとに戻した
武「さぁできたよ~あれ?どうしたの?」
スミレ「ううん、何でもない」
武「座ってよ、狭いけど」
スミレ「何だか今日は疲れたから、ホテル帰る」
武「え?」
スミレ「また明日」
武「そっか、うん、じゃあ、ホテルまで送るよ」
スミレ「ありがとう」
【插入曲start】
私は翌日、東京に帰ることにした
本当は、もう一日休みを取っていたのだけれど
武「本当に、もう帰ちゃうの?」
スミレ「バイト、あんまり休めないよ」
武「また、来る?」
スミレ「さぁね」
武「勝は元気?」
スミレ「えぇ」
武「あいつがやってた夏休みの宿題、タイトル何だっけ…」
スミレ「この夏の修学」
武「この夏の修学っか」
スミレ「ありがとう、楽しかった」
武「こっちこそ、ごめんな」
スミレ「なにが?」
武「いや、何だかさ…」
スミレ「じゃあ行くね」
武「うん、あ、スミレ」
スミレ「なに?」
武「今度は、麦藁帽子忘れんなよ」
スミレ「うん。これ似合ってる?」
武「あは、似合ってる、とっても」
スミレ「武…」
武「なに?」
スミレ「ううん、何でもない」
しばらく行きかけて振り向くと、武は大きく手を振り続けていた
心を残したまま、私も大きく手を振った
思い切り、空を掴むように
【插入曲end】