和泉マサムネの記念日 智恵編
エロマンガ先生 キャラクターソング & オーディオドラマ Vol.4
歌手:大西沙織
专辑:《エロマンガ先生 キャラクターソング & オーディオドラマ Vol.4》

高砂智恵は俺の同級生で
駅前にある本屋「高砂書店」の看板娘
マンガとライトノベルを愛する女子高生だ
一見のんびりとした優等生、と言った外見なのだが
実のところはそうでもない
そうだな、例えばこの前こんなことがあった
六月中旬、クラスでの話題に
夏休みという単語が混じり始めたある日の放課後
智恵:「ムネ君、ちょっといいかな」
正宗:「何だ」
智恵:「僕に勉強を教えてほしいんだ」
正宗:「ああ、ごめん。今新作の執筆で忙し……」
智恵:「無理を承知の上でお願いしたく
どうか学年中五位の和泉正宗様
追試をクリアしないと、補習で夏休みが」
正宗:「そういう理由ね。事情は分かったけど」
智恵:「無論、ただとは言いませぬ
報酬として、今月の電撃大王を用意いたしております」
(おお、智恵にしと奮発したな)
普段のこいつは友達に本をあげたりしない
自分ちで買い物をしてもらわなくちゃいけないからね
そのポリシーを曲げてまでのお願いということらしかった
正宗:「でも、俺が一番読みたいマンガ休載してそうだしな」
智恵:「おっしゃる通り休載中だけども
ほかにも面白いマンガがいっぱい載ってるから
最近連載が始まったばかりの作品もあるし
新規で購読を始めるにはうってつけのほうだから
あっ、面白かったら来月からは自分で買ってよね」
正宗:「それってもう、報酬というより、販促じゃないの」
智恵:「これで足りないというのなら、もう僕の体で払うしか」
正宗:「教室で何言ってんの」
(女子グループからすけい目で見られてるんだけど)
智恵:「だ、だってムネ君はエロマンガ先生に
パンツを見せてくれる美少女を探してるんでしょう
そこで僕がエロマンガ先生の犠牲になってあげる代わりに
勉強をだね」
正宗:「その件はもう解決したからいいよ」
(解決したというかつかまってみたというか
説明する気にもならないんだけども
ともかく、それは別の話だ)
正宗:「それと、俺の相棒であるイラストレートの名前を
教室で口に出すのはやめようか」
智恵:「なんで」
正宗:「俺が智恵に勉強を教えてあげるかわりに
エッチな要求をしているって誤解されるからだ」
智恵:「ああっ、場所変えよっか」
正宗:「図書室行こうぜ、追試の対策だけパッと教えるからさ」
智恵:「おお、商談成立ということかな」
正宗:「いや、ただでいいよ、いつも面白い本を教えてもらってるし
そのお返しってことで」
智恵:「本当に、わぁすっごく助かる」
正宗:「恩に来てくれるんなら、俺の新刊が出た時
おすすめ棚に並べてくれよ」
智恵:「いいよ、ただし、僕が読んで面白かったらね」
正宗:「そこは譲れないんだな」
図書室に移動した俺たちは長机を挟んで
向かい合うように座った
机の上にはノートが広げられている
しばらく追試範囲の内容を教えていると
智恵がノートから顔を上げていた
智恵:「いやぁムネ君、改めてありがとうね
優しい友達がいた幸運に感謝だ」
正宗:「お礼は追試結果で返してくれ」
智恵:「そのつもりだよ
にしても、試験結果の順位表を見てびっくりした
君ってあんなに成績よかったんだね
お仕事だって忙しいんだろうに、勉強する時間とかあるの」
正宗:「毎回必死だよ
まあちょっとした事情があってさ、成績落とせないんだ
お前こそ、見た目優等生っぼいのに」
(意外とアホなんだな)
智恵:「うん?何かな、最後まで言ってごらん」
正宗:「い、い、いやまあ、智恵にだってすごいところはあるよ」
智恵:「おお、例えば」
(えっと、智恵のすごいところ、すごいところ)
正宗:「面白い本とか、ゲームとかアニメとか、たくさん知ってるし
本屋の陣列テクニックとか、次に入る本の分析とか
そういうのって、普通の女子高生には出来ないコツだと思うぜ」
智恵:「ふん、学校では評価されない項目ですからね」
正宗:「普通科高校の劣等生なんだな」
智恵:「それってただのバカってことだよね」
正宗:「図書室で大声出すなよ」
智恵:「ああ、いけないいけない」
正宗:「さ、気を取り直して、勉強の続きをしようぜ」
智恵:「そういえばさ、ムネ君」
正宗:「鉛筆の動きが止まってるぞ」
智恵:「ちょっとだけ休憩しよう、ちょっとだけ」
正宗:「少しだけな、ってなんだよ」
智恵:「ラノベ作家って、儲かるの」
(いるよな、こういううさい質問をしてくる友達)
智恵:「いやだって、やっぱ気になるじゃんか
ほら、一オタク一ラノベファンとしてね
って、どうなのさ」
正宗:「人それぞれじゃないか
それこそ例の山田エルフ先生とこなら
家を買えるくらい稼いでいるだろうし」
智恵:「和泉マサムネ先生は大したことないの」
(失礼すぎだろう、こいつ)
正宗:「ええと、どうかな、
全然本が出せなくて
おととしみたいに年収がほぼゼロになっちゃうときもあれば
日本人の平均年収以上に稼げた年もあるよ
まあ、やっぱいろいろとしか言えないかな」
智恵:「うんん、よくネットとかでラノベ作家は稼げないから
編集者さんから絶対仕事をやめるなって言われる
なんて話を聞くけど」
正宗:「それは嘘だな、そうすは俺
『新作の売れ行きがいいから学校をやめてください』って言われた事がある」
智恵:「ネットゲーの廃人ギルドみたいだね」
正宗:「まあもちろんやめなかったからこそ
今こうしてるんだけどさ
あと、一応フォローしておくと、
作家の将来を築かってくれる心優しい編集者さんも
もしかしたらコネ運どっかにはいるかもしれない 」
智恵:「明らかに『いるわけねぇ』というニュアンスが感じられるんですけど」
正宗:「気のせいだ。んて、智恵、この話に落ちはあんの」
智恵:「えっとね、あるっじゃあるかな」
正宗:「あるのかよ」意外だ
智恵:「うんっとね、もしもムネ君が
アニメ化するくらいの大ヒット作品を生み出して
山田エルフ先生くらいに大儲けしたらさ」
正宗:「大儲けしたら?」
智恵:「僕が、ムネ君のお嫁さんになってあげてもいいよ」
正宗:「金目当てを隠そうともしてねぇ!」
(ふざけんな!せめてもうちょっとカムフラージュしろよ)
智恵:「まあ、考えておいてよ」
正宗:「却下、俺好きな人いるし」
智恵:「ええ、えーーー
だれ、だれ?同じクラス?」

智恵:「ええ、教えろよ、僕とムネ君の仲だろう」
正宗:「俺とお前の仲ってなんだよ
金目当てでプロポーズをする程度の仲なんだろう」
智恵:「いやいや、愛はともかく
僕たちの間には無償の友情があったはずだぜ」
正宗:「えっ?」
智恵:「何さムネ君、その何か言い出そうな顔は」
正宗:「俺ってなんでお前と友達になったんだっけ」
智恵:「ちょっ、ひどい、忘れちゃったの、ちゃんと思い出してよ
君の大切な記念日だったはずだろう」
正宗:「智恵と仲良くなった記念日ってこと?」
智恵:「それもあるけど、ほら
三年前、僕らがまだ幼気な中学生だった頃」
そう、あれは
正宗:「ああ、緊張する」
朝の十時、俺は高砂書店のライトノベルコーナーにいた
その日は、和泉マサムネのデビュー作は、初めて書店に並ぶ日だったのだ
正宗:「ああ、本当に売ってるよ、俺の
イラストレーター『エロマンガ』って書いてあるけど」
(なんでこの人こんないかがわしいペンネームをつけたかったんだよ)
正宗:「いたたっ、胃が痛い」
(俺、作家デューしたんだな
俺の本買ってくれる人がいるんだろうか)
ワクワクと心劣る気持ちと、不安でたまらない気持ちが
胸の中で渦巻いている
もちろん、作者が本屋にきたところで
本の売り上げを左右できるわけでもない
そんなことは分かってる
分かっちゃいるんだが、どうしてもこのまま家に帰る気にはなれなくて
どうしたかっていうとだな
本棚の陰に隠れて、本の売れ行きを監視する体勢に入った
血走った目で、ライトノベルコーナーを凝視する
たぶん漫画家とか、小説家とか、みんな似たようなことをやってると思う
新刊の発売日だからか
開店直後だというのに、お客さんはそこそこいる
しばし新刊棚に熱視線を送り続けていると
正宗:「おっ、ついに俺のデビュー作を手に取った人がいた
高校生くらいに男子だ
彼は手に取った本の表紙をじっと見て
裏返したり、背表紙を見たり、買おうかどうか迷っている様子」
(よし、買え!買うんだ!お願いします、きっと面白いから)
男1:「なんだよ、この『エロマンガ』って
恥ずかしくて買えねぇよ」
正宗:「ちくしょう、エロ漫画じゃないのに
エッチな内容じゃ全然ないのに」
さらに見守ること数分、再び俺のデビュー作を手に取る人がいた
正宗:「よーし、今度こそ買ってください
『エロマンガ』って書いてあるけど、エロくないから
さ、勇気を出して」
男2:「新人作家か、人は知らまじだな」
正宗:「けっ、えらそうに、何様だてめぇ」
(モンスターペアレンツと呼ばれる親たちの気持ちが
今の俺にはよくわかる)
さらに数分見守るも、一向に俺の本を買ってくれる人は現れない
(や、やばい、このまま一冊も売れなかったらどうしよう
デビュー早々、一巻打ち切りになっちゃったらどうしよう)
そんな情けなくも、切実な思いから、つい魔が差してしまったのだ
俺はフラフラとライトノベルコーナーに近づいていて
正宗:「なんか超面白そうなラノベが売ってるぞ
イラストもかわいいし、『和泉マサムネ』ってペンネームも格好いいし
あらすじも楽しそうだし、こりゃ大ヒット間違いなしですわ」
(じろっ)
正宗:「表紙に『エロマンガ』って書いてあるけど
イラストレーターさんの名前で内容には関係ないし
エッチな小説じゃちっともないし
勇気を出して買っちゃおうかな」
(じろっ、じろっ
さ、皆の物買え、買うのだ)
店主:「お客様」
正宗:「はいっ、ええ!」
店主:「お話がありますので、こちらに来ていただけますか」
肩をつかまれ振り向くと、強面マッチョのおっさん
高砂書店の店主が、ド迫力で俺を見下ろしていた
店内で騒いでいた俺は、書店のバックロームで弁解をしていた
正宗:「ですから、俺は作者なんですよ、この本の」
店主:「こんなに若い作家がいるか
うちの娘と同じぐらいじゃねぇか」
正宗:「本当ですって、最近中学生デビューとか、珍しくない時代なんですってば
ほら、これ、学生証、『和泉正宗』って書いてあるでしょう
この本の作者とほとんど同じ名前ですよ、これが証拠です」
店主:「うん、いやしかしな」
智恵:「ちょっと、お父さん
お店空っぽにして何やっての、万引きか何か」
店主:「ああ、いや、店で騒いでるやつがいたからよ
ほかのお客様の邪魔になるかもしれねぇから、事情を聞いてたんだが」
智恵:「ん?ありゃ、和泉君じゃない、一組の」
正宗:「えっ、君は」
智恵:「高砂智恵、覚えてないかな、小三の時同じクラスだったんだけど」
正宗:「あ、ごめん」
智恵:「そっか、まあいいや」
店主:「こぞ、こんな美少女を忘れたってんのか」
正宗:「す、すみません」
智恵:「ちょっ、お父さん、恥ずかしいこと言わないで
えっと、で、どういうこと」
店主:「だからな、店で騒いでたこぞは
自分がこの本を書いた作家だとかなんとか
下手な嘘ついてよ」
智恵:「おっ、それ、今日発売の新刊じゃん
って、えっ、『和泉マサムネ』、和泉正宗
ん?ん??ま、まさか」
正宗:「うん、俺がその本の作者、和泉正宗なんだ」
智恵:「マジで?」
正宗:「マジで」
店主:「偶然じゃねぇのか」
正宗:「本当ですって」
智恵:「ね、和泉君さ」
正宗:「な、なんだ」
智恵:「ブラックロッドとブラッドジャケットとブライトライツ-ホーリーランド
この三作ではどれが一番好き」
どれも電撃文庫から発売されている超名作小説だ
俺は質問の意図を分かりかねながらも、即答していた
正宗:「ブラッドジャケット」
智恵:「うんん
ラノベキャラで君が一番格好いいと思う名前は」

智恵:「んじゃ、ブギーポップシリーズで一番好きな本は」
正宗:「高砂さん、この質問に何の意味があるわけ」
智恵:「ライトノベル性格分析ってとこかな
いいから答えてよ」
正宗:「VSイマジ
いや、エンブリオ炎生かな」
智恵:「そっかそっか、なるほどね、いやどうりで
ちなみに僕は、パンドラとペパーミントの魔術師が好きだよ」
正宗:「俺も、ファントムは超好き」
智恵:「おお分かってるね
あっ、ところで、うちのお父さんちょっとイナズマに似てない」
正宗:「えっ、似てないと思うけど」
店主:「おいおい、何の話だ、さっぱりわからんぞ」
智恵:「お父さん、和泉君の言ってることたぶん本当
自分が作者だなんて言って、ごまかそうとしているわけじゃないよ」
店主:「なんでわかる」
智恵:「んとね、いまちょっと話してそう思った
ラノベ好きなやつに悪いやつはいないって
それだけじゃ弱いかな」
店主:「まあな」
智恵:「えっとじゃ、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど
僕、今日発売のラノベ
昨日店に入荷したときに読んじゃったんだよね」
正宗:「てことは、俺の本も読んでくれたってこと」
智恵:「えへへ、そういうこと
びっくりしちゃった、
僕が作品を読んで想像した作者のイメージそのものなんだもん
だから、きっとこの人が和泉マサムネ先生本人なんだろうなって思った
それに、同じクラスで一年間過ごしたこともあるしな
君はそんな嘘をつくようなやつじゃないよ
今日は和泉正宗のデビュー作発売日だし
お店の中で様子がおかしかったのはそのせいじゃないかな」
(見透かされている)
店主:「わかった
おいこぞ、もう店で騒ぐなよ」
正宗:「はい、すみませんでした」
智恵:「一件落着だね」
正宗:「助かったよ」
威圧感のかたまりがバックルームから去り
俺はようやく一息つく
そこで、高砂さんが上機嫌に近づいてきた
智恵:「で、和泉マサムネ先生、なんか面白そうだし、話聞かせてよ」
正宗:「ああ、記念日って、俺のデビュー作の発売日か
あれがきっかけでお前と話すようになったんだっけ」
智恵:「そうそう、なんだよ、ちゃんと覚えてるじゃん
その後ムネ君が、ラノベ作家だってことを学校では隠したいから
秘密にしててって言い出して」
正宗:「ずっと内緒にしてくれてるよな」
智恵:「そりゃ約束しましたからね」
正宗:「すぐばらされるって思ってた」
智恵:「ちぇ、ひどいな
こう見えてけっこう義理堅いだぜ僕」
正宗:「知ってる、友達だからな」
智恵:「そう、ムネ君が学校で唯一ラノベの話ができる友達だ
僕にとってもね」
俺はともかく、智恵は学校でも友達が多いほうだと思うのだが
やっぱり書店員でラノベ担当をしている彼女と同じレベルで
ラノベトークができる女子はいないらしい
だから、お互いにとっていい出会いだったのだろう
智恵:「ね、ムネ君この後うち寄ってく
ほら、勉強教えてもらった報酬、渡さなくちゃだし
ただでいいとは言ってもらったけれども、受け取ってよ」
正宗:「そういうことなら、行くよ」
智恵:「よーし、そうかなくっちゃ
ムネ君におすすめしたい本もあるんだ」
正宗:「貸してくれんの」
智恵:「売ってあげるよ」
正宗:「しっかりしてんな
わかった、買うよ」
智恵:「毎度あり、きっと気に入ってくれると思うよ
読んだら感想聞かせてよね」
高砂智恵、俺の親友は、こんなやつだ
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