星の王子様
緑黄色人種~Homo Caeruleus Cerinus
歌手:Shing02
专辑:《緑黄色人種~Homo Caeruleus Cerinus》

武力行使の惑星から逃げ出した宇宙飛行士
それがぼく、星の王子様
地球との時差は22光年
電力ロケットの設計を始めた少年の時から
解き明かされた彼方からのメッセージは
地球に届くくらい強く、子宮に届くくらい深く
長い眠りから覚めたショックは直角的 昆虫の様な第六感、触角的
春先、雪が溶ける頃に大空に光るしっぽを引いて地球を飛び立ったのです
こんな風に始まった旅の物語は
辺りが静かになって初めて聴こえたのでした
まず初めに降り立った月の表面は、光る砂が敷き詰められ
日本庭園の様に岩が所々に置かれていました
まんなかには水のない川が静かに流れ
そのほとりでは、そよ風が暗闇の中へと
小石をせっせと運んでいくのです
月の裏側には、地球を見たこともないという女性がひっそりと住んでいました
「なぜ明るい方へ移らないのです」
と訊くと彼女は、僕と目を合わさずにこう答えました
「私には興味がないの、ここで幸せですもの
それにこの宇宙は広いようで、本当は何もないだけ
それよりもあなたはなぜ一人で旅をなさるわけ、教えて」
僕は
「知りません、でもそれを知る為に旅をしているのだと思います」
と自信なく返しました
彼女は不思議そうな、切ない顔をしましたが
僕は月をあとにすると、火星へと向かったのです
火星にはロボット文明が栄えていて
最初に降り立ったロボットの偶像が祀られていました
災害を免れた栽培は植物をもたらし、種がお金になっていました
畑一面の巨大な葉っぱ達は太陽に向けられ
囲いで寒さから守られています
「君たちは機械なのに植物を大事に育てているんだ」
と感心すると、 ロボット達は
「他に何を大事にするのです」
とそっけなく答えて、 仕事場へと戻っていきます
「僕は今、何が大事なのか探しているんです」
とあわてて言うと、 彼らは加えてこう言いました
「水星に行ってごらんなさい、
あそこは誰も住んでいないから、ゆっくり考え事ができるでしょう」
こうして次にやってきたのが水星です
なるほど、この星には誰も住んでいません
でも他にも、ぼくの様に憩いを求めてやってくる旅人もいました
ぼくがその人を見て
「やあ」
と言うと向こうは迷惑そうに
「やあ」
と言います
きっとその人も一人で考え事をしに来たのでしょう
それからぼくは長い長い一日のなかでいろいろと考えました
そして発つ時に、旅人に
「じゃあ」
と言いました、その人も
「じゃあ」
と言いました
木星は打って変わって大変にぎわっていました
みんな新しくできた斑点を一目見ようと
いろんな惑星からの学生や家族連れが、崩れた石を採集して楽しんでいます
ぼくは、と言いますと、旅をしているはずみに寄っただけで
ただそこにたたずみ、風に涼みながら景色を一人で眺めていました
そして地球のことを考えていました
「どうしたんだい」
と背後で声がするので振り向くと
そこには緑色の少年が立っていました
ぼくが何も言えずに彼の容姿を観察していると
「君の影が泣いていたからさ」
とぽつりと言うのでぼくは少し考えてから
「今ぼくの星はもっと泣いているんだ」
と答えました、少年は
「知ってるよ、地球だろ、よかったらぼくんちにおいでよ」
と笑って飛び立っていったのであとを付いていくことにしたのです
そして次の朝には金星につきました
金星は一日が一年よりも長いという不思議な星です
硫酸の雲を通り抜けると褐色の大地が広がり、
それは熱い、熱い空気に包まれました
「あそこでピクニックをしているのがぼくの家族だよ、
うちのお父さんは物知りだから話してみるといいよ」
と少年に連れられ 8000年も生きているというおじさんにぼくの身の上話をしました
「ああ、空気がありすぎてパンクした星ね、
そりゃ一度は行ってみたいけど住んでみたいとはおもわねえな」
と言われて、何も返せずに困っていると、
彼はもう少し優しくこう言いました
「わかるかい、みんな落ち着ける場所さえあればいいのさ
誰もが壁のない様な部屋に入れられていると、ゴキブリの様に隅を探したくなるもんさ」ぼくがその意味を理解できる様になったのはずっと後のことです
おじさんは
「とにかく明日は久しぶりに土星でオリンピックをやるから、
行って見て感じてきなさい」
とだけ言い残してぐったりと眠ってしまいました
ぼくは少年にありがとうを伝えてから、その日のうちに土星へと向かったのでした
土星では思ったより慎ましいオリンピックが開催されていました
「みんな参加することに意義があるのです」
と二酸化炭素ボンベを背負った冥王星人が胸をはって言いました
競技はただ一つ、宇宙遊泳の美しさを順番に競うのです メダルもありません
みんな違うスタイルで誰もが華麗に踊り、海王星の女の子が一番きれいに舞いました
いつの間にかぼくの番になって、遠慮をしていると
「では君の星の人はどんな舞をするのかね」
と訊かれ
「私たちは地面に足がくっついているので、できないのです」
と答えると
「そんな不自由な人たちもいるものね、かわいそうに」
とまわりに真剣に同情されました
ぼくはそのとき何かを言いたかったのですが、なんだか悲しくなって土星を離れました
結局最後に残ったのは、ぼくと太陽と地球、この三つでした
真っ暗闇の宇宙で絶えず燃える太陽は、辺り一面を大事に照らしているのですが
ほとんどの光は反射されることなく、永遠に休みなく走っていきます
ぼくが目をつむって太陽を浴びていると、
自分がしゃべる声がかすかに聞こえました
「ぼくは恋しい、 おいしい空気、音と匂いと形と色が
水と草と動物と人が
夜明けと夕方と昼と夜が
雨と晴れと曇りと雪が
春と夏と秋と冬が」
これを聞いてぼくは、自分のなかの疑問がゆっくりと、消えて去っていくのがわかりました
ぼくは太陽にお礼を言ってから、涙を捕まえて地球へと向かったのでした
月曜日は月に降り立って
火曜日は火星の植物と戯れて
水曜日は水星で一休み
木曜日は木星で友達に会ってから
金曜日は金星でピクニック
土曜日は土星の輪っかでオリンピック
日曜日には太陽に光を浴びに行って
暑くなったから地球へと帰ったんだ
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