『ヒコ』 僕がまだほんの子狐だった頃 いや、今でもまだまだ子供なんだけど 人の世に興味があって 人里へ降りようとした時 野犬に襲われて動けなくなったんだ 痛くて冷たくて もうこのまま死んちゃうのかなって 諦めかけていたら 小さい女の子が僕を助けてくれたんだ 僕を守るように木刀を構えて 野犬と向き合って 僕に言った 絶対私が守ってあげる だから大丈夫だよ その子も小さく震えてたのに 僕を安心させるようにそう言ってくれた やがて飛びかかった野犬の鼻柱を鋭い剣撃で叩いて追い払ってくれたんだ それから 傷だらけだった僕の手当てをして 山に返してくれた その子の名前は 千代 僕は決めたんだ いつかきっとこの子を守るだって 今度は僕がこの子を守ってみせるんだって