第三話『オオカミがきた』 オオカミが来た 朗読 櫻井孝宏 昔々ある村に、羊飼いの少年がすんでいました 少年は毎日村はずれの牧草地まで、羊を追い立てて、草を食べさせていました ほら、こちだ、こら、そこ列を乱すな、みんなちゃんとついたか、えっと、羊飼い1匹、羊飼い2匹、羊飼い3匹 牧草地につくと、少年は連れてきた羊の数を数え始めました これで全部かな、みんな、タント草を食うんだぞ 羊を話すと、少年はその場に座って、空を眺めました いい天気だな そういって、少年は大きく伸びをします。そして、草を食べている羊を見ながら 「退屈だな」っと、つまらなそうにつぶやきました 羊飼いの少年は、羊を牧草地に離してしまってから、夕方村に連れて帰るまでの間、ほとんどすることはないのです 何か面白いことないかな それが、少年の口癖でした 来る日も来る日も、こうして暇ない一日、牧草地で没頭しているのですから、無理もありません。 こんな風に空を眺めるのも、もう飽きった 少年はごろんと草の上に寝転び、昼みでもしようと試みますが、全然眠くなりません 羊の数でも数えれば、少しは眠くなるかな そう思って、もしゃもしゃと幸せそうに草を食べる羊を眺めますが、ああ、でも、羊を数えるのはさっきやったばっかだし、なんか馬鹿馬鹿しいよな な、お前ら、そんなに草をばっか食っててたのしいか? 少年が戯れに羊と話しますが、徒然ながら羊は メー っと鳴き声を返すばかりで、会話になるはずもありません 昼杵するもならないし、羊を見るのも、眺めを見るのも、もう飽きった!せめて話し相手てもいれば、いい暇つぶしになるのに はあ、何度見でも、ここには俺しかいないんだよな いっそこいつらを置いて、村に帰ちまおうか メー なんてな、そんなわけにもいかないか、俺がいない間に、こいつらは狼に襲われてもしたら、大変だもんな もし少年がいない間にオオカミが現れてしまったら、羊はみんな食べられてしまうでしょう だから少年は羊がほかの動物に襲われないよう、ここでずっと見張っていなければいけないのです。とはいえ、少年に狼と戦うだけの力はありません。万が一羊が襲われそうになったら、少年はすぐさま村にかえて、村の大人たちに「狼が出た」と知らせなければならないのです ああ、そっか、狼か、いいこと思いついたぞ そう言ってほくそ笑むと少年は立ち上がり お前たち、いい子にしてここで待っているんだぞ メー 羊たちに声をかけると、少年は草を食べている羊たちを置き去りにして、村に帰っていきました。そして村に近付くと た た た 大変だ!狼が出たぞ! と喚き散らしながら村に駆け込んでいったのです うん、なんだなんだ 狼だよ、狼が出たんだ なに、狼じゃと? そいつは大変だ  オイ、みんな!狼が出たってよ! 少年の叫び声を聞きつけて、村人が集まってきました それで狼はどこに出たんだ、村の近くか 村のはずれの牧草地だよ、早く助けて、羊がみんな食べられちまう そうか、分かった、皆、武器を持って、牧草地に急ぐぞ 村の男達がぼうや食わなど思って牧草地に駆けつけます しかしそこでは、羊たちがのんびりと草を食べているばかりで、どこを見ても狼の姿がありません。 なんじゃ、狼なぞいないではないか 羊たちもみんないるじゃないか。けどまあ無事で何よりだ 男たちは拍子抜けして村へ帰って行きました。 は は は は は は は は は は は は は はあ、可笑しい、狼がいないってわかった時のあいつらの間抜けな顔ったら あ は は は あ は は は は は 少年は腹を抱えて笑い転げました。 ああ、楽しいかった、こんなに楽しいなら、もっと早くやればよかったよ それがよっぽど楽しかったのでしょう、それから何日か過ぎたある日のこと 今日も少年は羊を離したら何もすることがなく退屈そうに寝転がっていました。 はあ 退屈だなぁ、この前はあんなに楽しかったのに、今日もまた何もすることはないや ああ、そうか、することはないな ら、またあれをやったらいいんだ、今度もみんなきっと騙されるぞ 少年はすっくと立ち上がり、羊達に ちょっと村までに行ってくる、お前達はいい子でここにいるんだぞ っと声をかけ、村へ向かって走り出しました。そして、村の入り口にやってくると 狼だ!狼が出たぞ! 少年は再びそう叫びながら村に駆け込みました なに、狼だって じゃが、この前はいなかったぞい そうだそうだ、お前俺たちを騙して遊んでるじゃないだろうね そんなことないよ、本当に狼が出たんだって そうは言ってもな 信用できるか しかし、今回は本当かもしれないし、見に行かないわけにも 今度は本当さ、な、信じてくれよ そうだな、とにかく行ってみよう 村人は今度も少年の言うことを信じて武器を持って牧草地へ向かいました しかし、牧草地は平和そのもの、狼の影すら見当たりません。 ほうれ、見ろ、やっぱり嘘だったじゃないか そうみたいですね、は、今度こそはと思ったんだけど そうか、また嘘だったのか 一度ならず、二度まで騙された村人たちはため息をついて村に帰っていきました は は は は は あ は は は は は まだ騙されて野郎!この前騙されたばかりなのに馬鹿な奴らよまったく!ああ、可笑しい! 少年は涙が出るほど笑い転げました。 それから何日が経ったある日のこと またもう退屈の虫が騒ぎ出した少年は そろそろまた村の皆をからかってやろうかな と企んでいました。 しかし メー、メー 先程までのんびりと草を食べていた羊が泣きながら逃げ回り始めたのです な、なんだ、お前たち一体どうしっ ああ!狼が! なんと、狼が牧草地に入り込み、羊を襲っているではありませんか ええ、やめろ!あっちいけ!し、し! メー、メー 少年はなんとか狼を追い払おうとしますが、とても太刀打ちできません、それに狼は1匹だけではなかったのです、何匹もの狼が牧草地にやってきて次々と羊に襲い掛かります。 くそ、やっぱり1人じゃどうにもできないから メー、メー もう、だめだ、とにかくみんなを 少年は大急ぎで村に戻りました 狼だ、本当に狼が来たんだ、早く、早く助けてくれよ 少年は泣きながら村に飛び込んでいきました。しかし この大悪ガキ目、まだわしらを騙す気か 違うよ、今度は本当なんだ、本当に狼が来たんだよ、お願いだ、助けてくれ、頼むよ 少年は泣きながら訴えますが、村人は誰一人動こうとはしません 信じてあげたいけど、俺たちは二回も君に騙されている。俺たちだって暇じゃない、そう何回も君の暇潰しには付き合ってあげられないんだよ 村人は少年を優しく諭します 違う、違うんだ、今度は本当なんだ、今度は信じてくれよ そういわれてもね どうせまだ嘘に決まってるよ、こんなやつほっとおいていこうぜ ええ、そうだね 村人は一人、まだ一人と、家へ戻っていきます。 そ、そんな 皆、嘘つきの手伝いなど、ごめんだと思えておりのよ そんなに羊が大事なら、お主一人で追い払うことだな 結局、誰一人として、少年のいうことを信じてはくれませんでした 少年はがっくりと肩を落とし、すごすごと牧草地へ引き返しました。すると はあ、俺の羊が 少年が戻った時、そこに狼の姿はありませんでした。そして、羊も狼に食い殺され、一匹も残っていませんでした 俺が馬鹿だったんだ、皆を騙したから罰があたったり違いない、こんなことなら、嘘なんかつくじゃなかった。皆、ごめんよ そういって、少年は大きな声で泣き出した 嘘ばかりついていると、たとえ本当のことをいっていても、信じてもらえなくなってしまう というお話でした お終い